小売企業がAWSを使うことに、ずっと引っかかっている話
AWSは優れたクラウドだ。機能は豊富で、実績も多く、人材も見つけやすい。クラウドの選定で迷ったら、まずAWSを候補に入れるという判断には十分な根拠がある。
それでも、「小売企業がAWSを選ぶ」という場面については、ずっと引っかかっている。技術的な優劣ではなく、競争構造としての違和感だ。
AWSの優位性は前提として認めている
最初に立場をはっきりさせておきたい。AWSが提供する機能の幅、ドキュメントの充実度、運用ノウハウの蓄積、エンジニア市場の厚みは他のクラウドと比べても抜きん出ている。「迷ったらAWSで作っておけば、人もスキルも揃えやすい」という現場の感覚は、技術的にはまったく正しい。
だからこの記事は、AWS自体を否定する話ではない。AWSは優秀だ、という前提のうえで、「それでも小売企業が選ぶには引っかかる点がある」という話だ。
Amazonは、クラウド企業である前に巨大な小売企業
違和感の核心はシンプルで、「Amazonはクラウド企業である前に、巨大な小売企業」という事実にある。
小売企業がAWSを使うと、自社のIT投資の一部は、AWSの売上として計上され、最終的にはAmazonというグループ全体の体力を支える。その体力は、Amazonの小売事業——つまり自社の競合事業——にも回っていく可能性がある。
インフラ選定は、価格と性能とサポートの比較ではある。それと同時に、「どの会社にお金を払うか」という選択でもある。少なくとも小売業にとって、それは中立な選択ではない。
Walmartが慎重だった理由は、競争戦略として自然だった
この観点で象徴的なのが、Walmartがパートナー企業に対して「AWSを使わないこと」を求めてきた、と報じられてきた経緯だ。当時は「過剰反応では」という見方もあったが、競争戦略としては自然な判断に見える。
競合の収益基盤を太らせる支出を、自社の業務システムから流し続ける構造を放置していいのか。これは技術部門だけでは答えが出ない、経営の問いだ。
今は選択肢が増えている
かつては「クラウド = AWS」という空気もあったが、今は事情が違う。
- Google Cloud(GCP)
- Microsoft Azure
- さくらのクラウド
- カゴヤ・ジャパン
- その他、用途別の国産クラウド・専門系クラウド
すべての小売要件を「AWS以外」で満たせるとは限らない。ただ、システムによっては十分な代替がある。「AWSしかない」と思考停止する理由は、以前ほど強くはない。
日本市場の動きとして、もう少し議論されてもいい
日本でもAWS採用は急速に広がった。スタートアップから大企業まで、まずAWSに乗せるという流れは強い。それ自体は悪いことではない。
一方で、小売業界全体としてAmazon経済圏への依存度を高めることが、長い目で見て自分たちの首を絞めることにならないか、という視点はあまり議論されていないように感じる。個別企業の最適化と、業界全体の構造はまた別の話だ。
技術選定は、単なる技術の話だけではない
繰り返しになるが、AWSが優れていることと、小売企業がAWSを選ぶべきかどうかは、別の問いだ。
インフラ選定では、価格・性能・運用性の比較が中心になる。そこに加えて、「競争上の意味」「依存のリスク」「産業全体への影響」も判断材料に入れていい。むしろ、入れたほうが自然だと思う。
技術選定は、技術の話だけではない。誰の事業を結果的に支えることになるのか、という視点を持って初めて、長く使える選択になっていく。
まとめ
- AWSが優れたクラウドであることは前提。技術・人材・運用面の優位は認めて議論すべき
- Amazonはクラウド企業である前に巨大な小売企業で、小売企業のIT支出は競合の体力を支える構造になりうる
- Walmartが慎重だったのは過剰反応ではなく、競争戦略として自然な判断だった
- GCP・Azure・国産クラウドなど選択肢は広がり、「AWS以外」を真面目に検討できる時代
- インフラ選定は技術の話だけでなく、競争上の意味・依存のリスク・産業全体への影響も判断材料に入れていい
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